【コラム】「自然界からのごちそうを活かす」

今年も「サス学」アカデミーの参加者募集が始まりました。今回のテーマは、“健康”。2日目には三井物産の社有林の一つである亀山山林へ行き、「森と健康のつながりを体感する」プログラムもあります。

 

ところで皆さんは、自然界からのごちそうと聞けばどんな食べものが思い浮かびますか?島国である日本は、地域ごとに海の幸や山の幸、様々な自然からの恵みがありますね。私はといえば、「シカのお肉」を挙げます。最近「ジビエ」と呼ばれ、徐々に人気が出ている野生動物のお肉ですが、とりわけシカのお肉は大変美味なもの。

 

大学卒業後、私はシステムエンジニアの仕事を12年ほどしていました。あるきっかけから自然環境を保全する重要性に目覚め、退職して森林や野生生物の持続的保全について専門的に学びました。この二度目の学生時代、日本国内や米国・カナダの森林をまわり保全の仕組と現場のレンジャーの思いにふれることができ、また環境省のサブレンジャーや野生動物の調査を手伝う機会があり、そこで得た様々なことやつながりは前職の「生物多様性保全」や現在の「サス学」の仕事に活かされています。

 

 

1999年に長野県下伊那地区で、野生鹿による森林被害を受けた生態調査があり、これに参加した時のことです。他のスタッフたちと泊まり込んでの10 日間、コンパスと高度計を持って周辺の深い山の中に入り、自分の受け持ちの調査エリアを上から下へと移動して、途中で鹿のフンや足跡、樹皮をかじったような痕跡を見つけると、地図に書き込んで記録しました。

 

山中の調査は大変きびしいもので、人が歩く道などはもちろんありはせず、あるのは野生の動物が移動するのに使うケモノ道。ある時はケモノ道を歩いていたところ、野生のイノシシが向こうからこちらへ向かってくるのを発見!幸いにもこちらが風下にいたので、急いで大きな木の後ろに隠れて息をころし、気配を消して助かったことがありました。

 

またある時は、自分の背丈もあるような藪ばかりがつづく中、目の前が見えずに藪をかき分けながら進んでいたところ、いきなり高い崖の上に出てしまい危うく転落しそうになったことも経験。 まさに野生の自然そのものを体感しました。

 

そのような朝から夕方近くまで体力をたっぷり使い、緊張感のある毎日の中での一番の楽しみは、泊まっていた民宿の食事であり、中でも「シカ肉」は絶品!初めて味わったその感覚は、それまで食べてきた牛・豚・鳥の肉とは比べられない別格の旨味だったのです。その時から私の中では、一番おいしいお肉=「シカ肉」となりました。

 

 

ある時、自然環境保全の師匠であるC.W.ニコルさん(作家)と話をしていて、なぜ「シカ肉」が他の動物の肉よりもおいしいのかの謎がとけました。ニコルさんによると、シカ肉は鉄分やアミノ酸、プロテイン、ミネラルを豊富に持っており、健康によい実に優れた食材だったのです。

 

本来、森林の生態系は人間が積極的に管理しなくても、動植物が相互にバランスを保っているもの。しかし、日本では地球温暖化による積雪の減少、天敵であったオオカミの絶滅、(人間の)ハンターの高齢化で狩猟を行う人が減少したことなどから、シカは頭数を増やしていきました。

 

一方で国内の林業経営をとりまく厳しい状況は長く続き、山の手入れが行き届かずに荒廃した森林を全国のあちこちに見ます。増えすぎたシカは、山の中にエサを探して貴重な植物を食べたり樹皮をかじって飢えをしのぎ、樹木を枯らしてしまいます。

 

各地の自治体では、山を荒らすシカの計画的な駆除(個体数調整)として、適正な数のシカの間引きを実施しています。しかし捕獲された鹿は廃棄処分されることが多くありました。このもったいない状況に、近年食材の有効活用をする「ジビエ」(仏語で野生鳥獣の肉)を普及させる動きが少しづつ各地に広がってきています。

 

 

『英国では、野生の鳥獣はきわめて貴重で、その中でもシカ肉は格別な扱いであった。 
だから私もシカ肉を料理するときは、尊厳をもって、またいかに美味しくいただくかということを心がけている。』
(「Venison うまいシカ肉が日本を救う! 」C.W. ニコル著)

 

ジビエに注目が集まり、流通システムも改善され始めており、野生動物による森林や農業被害の軽減が期待されています。日本には古くから大事にされてきた「いただきます」の精神がありますが、その感謝の気持ちと共にシカ肉消費によるお金の活用で、森林生態系の保全や地域の活性化がどんどん進んでいくことを期待したいですね。

 

(執筆者: 岸 和幸)

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